恋するキオク
「野崎さ〜ん!」
遠くから呼ばれた声に振り返ると、一人悶える春乃の後ろから、牧野さんが走ってくるのが見えた。
そういえば昨日の圭吾の返事。
結局今日は、やってくれるってことなんだよね?
「はぁ、はぁ…。野崎さん、米倉くん来てる?」
「ううん。私はまだ見てないけど」
「なんか竹田に言ったらすっかり安心し切っちゃってさ。助かった〜とか気抜いてるんだけど。ホントに米倉くんがやってくれるんだよね?」
「う、ん……」
たぶん、そう……
でも、ちょっと不安になってきた。
来るよね?…圭吾。
つい真顔になって考え込んだ私。
すると
「あ、来た来た!良かった〜…って……米倉くん!?」
えっ?
「わっ!全然違うじゃん!」
……。
牧野さんと春乃が驚く後ろで、私は声を出すのも忘れて立ち尽くした。
圭吾…、髪……
「前の色じゃ、カイのイメージとかけ離れてるし」
「そ、それはたしかにそうだけど!でも、そこまで気合い入れてくれてるなんて感激!米倉くん、さっそくみんなのとこ来てよ」
牧野さんが圭吾を引っ張って行く。
残された私は、まだ開いた口を閉じることもできてなくて。
隣にいた春乃は、ちょっと複雑な顔で私に話しかけてきた。
「米倉くんがカイをやるの?」
「あ、うん…急にそういうことになっちゃって。どうして?」
「ううん。なんでもないけど。私も自分のとこの準備行くね」
「うん、あとでね」
それから慌てた様子で、春乃は反対の校舎へ走って行った。
なんだろう。