恋するキオク
噂と妬み
「みんな、急いでね〜」
「あ、ちょっと待って」
「次どこのクラスの発表だったっけ?早く行こうぜ」
小道具を運んだ係の子たちが、声を小さくしながら廊下を走って行く。
劇を終えて教室に戻った私たちは、一旦着替えてから荷物を片付けると、他のクラスのステージを見るために再び体育館へ移動しなければいけない。
全校生徒は、まだ次のクラスの出し物を見ている途中で。
校舎内には誰の気配もなく、そこは自分の足音にも驚くほどにひっそりとしていた。
やたらと頭についていた髪飾りを外すのに時間がかかっていた私が、早く早くと焦りながら教室内を見渡すと
そこにはもう誰の姿もなくて。
みんな早い…
次のクラスがどんな出し物をするかなんて、特に興味もなかったけど。
静かな校舎っていうのは、一人だとどことなくコワイ雰囲気があったから。
ちょっとビクビクしながら、私はまたややこしい髪飾りに手を焼き続けた。
今日の劇は、最高だったと思う。
みんなで協力し合って、ひとつのものを成し遂げた達成感と
観ていた人たちからもらった沢山の拍手に対する満足感。
泣いてた人もいた。
嬉しくて抱き合ってた人もいた。
本当に、良かった。
そしてクラスのみんながそんな気分に浸ってる中で、私は足下のライトで見えにくくなった一番前の席から視線を外して
隣で最後の礼をする圭吾を、なんとなく見上げてたんだ。
こうして堂々とみんなの前で圭吾の隣に立てるのは、これで最後なのかもしれない。
昨日の放課後に圭吾と話したことを思い出しながら、そんなことを考えて…
「まだいたの」
ビクッ!?
「っ圭吾…。圭吾もまだいたんだ」
「別にそこまで驚かなくても」
どこで着替えていたのか、私は突然衣装を抱えて現れた圭吾に驚いて声が裏返ってしまった。
そんな私に呆れながら自分の席に荷物を置きに行く圭吾。
だってこんな静かなとこで急に声をかけられたら、誰でも驚くでしょ?
それに今、
なんか、ちょっと…
昨日のキスのこととか思い出してたから、恥ずかしいっていうか、焦ったっていうか。