Ri.Night Ⅰ 【全完結】
……あ。
廊下に出て気付いた事が一つ。
階段、どうしよう。
さっき拒絶しちゃったからやっぱり一人で下りなきゃいけないよね。
立ちはだかる難所に頭を抱えるあたし。
……本当、どうしたらいいんだろう。
そう本気で悩んだ時だった。
前を歩いていた十夜が突然階段の前で足を止めて、チラリ、あたしを一瞥してきた。
その視線にドキッと飛び跳ねるあたしの心臓。
けど、十夜はあたしを一瞬見ただけで、何も言わずにそのまま階段を下りようとした。
それが何だか拒絶されたような気がして。
「ま、待って!」
──気が付けば、大きな声で十夜を呼び止めていた。
「………」
肩越しに振り返ってくれた十夜に少し安堵して、トコトコと十夜の傍まで歩み寄って行く。
「つ、掴んでもいい?」
十夜の服の裾をそっと掴んでそう聞くと、十夜はあたしが掴んでる裾を凝視していて。
「……あ」
そこで漸く自分のした事に気が付いた。
「いや、その……」
「危ねぇから離すなよ」
「……へ?」
一言だけそう言い放って階段を下りていく十夜。
……ウソ。
十夜、今笑ってた?
笑ったって言わないぐらいほんのちょっとだったけど。
でも、確かに今笑ってた。
何故だか分からないけどそれが無性に嬉しくて。
あたしは、掴んでいる裾をキュッと強く握り締めた。