透明探し
少女であった。
それこそ本当に年端も行かぬ、小さな少女であった。
この辺りの中学校の制服を着ているから中学生ではあるのだろう。
だけれどその顔には大人を目指していないかのようなあどけなさを持ち、子供という言葉が実に似つかわしいほど幼い。
ただの小学生が、制服を着ているだけかのように。

少女である。
午後9時を過ぎた大人の世界、バー。
雨もよう故に客足は悪く客と言える者は私しか居ないとは言え、普段は成人を超えた者達が集い談笑と共に酒を酌み交わす空間である。
その中に、少女である。
おかしいだろう、と、脳に言葉を浮かべたか 、はたまた口に出したか、どちらにせよ強烈なまでにそう感じた。
バーであるのに珈琲がウリなのがこの店だが、それを理解しているのか手元には珈琲カップがある。
湯気が立っていないところを見ると既に飲み干されているようだが、今の私にその推理をする余裕などはなかった。
異質だ。

いくらマスターとは言え彼女を店から追い立てない程の懐の広さには疑問を抱かざるを得ないし、そしてやはりこの時間のこの店に少女が存在する事に驚きを隠せない。
あしげく通って2年近く、未だかつて子連れを見た事はあれど子供だけは見た事がない。

私はもはや彼女がマスターを呼び捨てにした事など頭から飛んでいて、少女が大人を呼び捨てにする事もたいへん宜しくない事であるのに何故か一人わたわたと焦っていた。
そうだ。
冷静になれ、何を焦る必要があると言うのか、何処にその必要が存在すると言うのか。
ただ、イレギュラー的にたまたま、この時間、この場に少女がいるだけである。
ただそれだけのことなのだ。
何をうろたえる必要があると言うのか。
良く考えてみたらここまで動揺する事であるのか。

ふぅ、と溜息を一つ吐き、冷めて幾らか口当たりの良くなった珈琲を口に流す。
私は人並み以上に味の違い、香りの違いが解る人間ではないが、依怙贔屓や自己暗示もあるのであろう、ここの珈琲は特別美味いと感じた。
確かに評判も良く、常連は酒の場であるにも関わらず好んで珈琲を注文する程だ。
その他の者達の信頼の味を、プラシーボ効果と言ったか盲目的な暗示に任せて香りと共に楽しんだ。

そうして心を落ち着かせ、少女の方に視線を流す。
こちらを見ていた。
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