透明探し
それから数日後である。
その後“空の色”では彼女の姿を見る事はなかったが、社交的でないうえ臆病の権化である私は「関わり合いになるな」と言うマスターの釘刺しに「詮索無用」の意味も勝手に汲み取り、要するに聞けばいいものを何かを恐れて何故だか聞けていなかった。
あの日の事は特に気にすることでもなくただの日常の外の出来事だったわけだが、何故だかあの少女の事が頭から離れない。
視力の宜しくない私は彼女のあの幼き御尊顔をまじまじと見つめることは叶わなかった訳であるが、しかしあの存在感を強烈に忘れられずにいた。
静かに駆動する腕や手、指の一つ一つ。
距離がありクラッシックが流されていたにせよ静寂と大差なかったあの時の店内において、カップ一つを置くことにすら音が立たないとなると私の中では中々にツワモノだと思われた。
しかし私の心に引っ掛かったのはそこではない。
と言うかその静かな挙動は単にやたら静かだったなくらいにしか感じていない。
思い返せば確かに異様に静かだったな程度のことでしかない。
私の心に引っ掛かって、引っ掛かったままぶら下がり無風の中大きく揺れ続けたのは、やはりその容姿と、雰囲気だ。
容姿については前述の通り私の視力では異様な幼さしか読み取れず輪郭的な視点はボヤけていた訳だが、雰囲気は違った。
イメージにすると黒く、冷たく、静かで、上品。
すぐに目を背けてしまったが彼女が私のボヤけた景色の上から私を選定するかのように無表情に見つめていたその感覚は、彼女の雰囲気とかオーラとかテリトリーとかパーソナルスペースとかそう言うものがぬっと伸び、私の身体を舐め回す様にまとわりついて離さないようだった。
それは、幽霊のような何かを目撃してしまった後、憑かれているのではないかと様々な暗闇を、音を、現象を恐怖してまうような、日常に付いて回る記憶だ。
妄想でしかないのだけれど私は、彼女があの時私に何かを見定め、いつか何か起こすのではないかと危惧してしまう。
これを被害妄想だとか自意識過ゆ剰だとか言うのだろう。
私は心か弱い脆弱な乙女である。
しかしクールになってみればやはりあの少女はただの少女だったのかも知れない。
と言うか当然そうに決まっているだろうと、流石にそれはねぇだろうと、その常識的価値観が私の薄い安心感を根底から支えて揺るぎないものにしていた。
薄いので不安が透けて見えるが、あくまでも常識は常識である。
危惧していたファンタジーやSF、ホラーは往々にして危惧に終わるものである。
そうであらねばならない。
そうであらねばこの世界はたちまち天使と悪魔と死者と魔物に囲まれ幾多の勇者達が剣と魔法を駆使して応戦する中、片や終末の学園にてのほほんと学園バトルコメディラブコメディが繰り広げられるであろう。
私の希薄な人間性と中途半端なキャラクター性は、あの少女と比べてどれほどのものだったのだろうか。
きっと彼女が私を見つめていた真実は、“ただ見ていただけ”なのだろうが、もし私の中の何かに気付き、そこに何かを見出してくれていたのならば私とて人間味を帯びてくるのかも知れない。
このような戯言を脳内に悶々と製造する段階で既に人間味に塗れている可能性も否定できないが。
他人の脳内は見えない。
故に比べることなどできないのだ。
比して私は正常であるか、この世界の小さな歯車として正常なものであるか。
そしてあの少女が、私と比べてどのような存在なのかなど。
その後“空の色”では彼女の姿を見る事はなかったが、社交的でないうえ臆病の権化である私は「関わり合いになるな」と言うマスターの釘刺しに「詮索無用」の意味も勝手に汲み取り、要するに聞けばいいものを何かを恐れて何故だか聞けていなかった。
あの日の事は特に気にすることでもなくただの日常の外の出来事だったわけだが、何故だかあの少女の事が頭から離れない。
視力の宜しくない私は彼女のあの幼き御尊顔をまじまじと見つめることは叶わなかった訳であるが、しかしあの存在感を強烈に忘れられずにいた。
静かに駆動する腕や手、指の一つ一つ。
距離がありクラッシックが流されていたにせよ静寂と大差なかったあの時の店内において、カップ一つを置くことにすら音が立たないとなると私の中では中々にツワモノだと思われた。
しかし私の心に引っ掛かったのはそこではない。
と言うかその静かな挙動は単にやたら静かだったなくらいにしか感じていない。
思い返せば確かに異様に静かだったな程度のことでしかない。
私の心に引っ掛かって、引っ掛かったままぶら下がり無風の中大きく揺れ続けたのは、やはりその容姿と、雰囲気だ。
容姿については前述の通り私の視力では異様な幼さしか読み取れず輪郭的な視点はボヤけていた訳だが、雰囲気は違った。
イメージにすると黒く、冷たく、静かで、上品。
すぐに目を背けてしまったが彼女が私のボヤけた景色の上から私を選定するかのように無表情に見つめていたその感覚は、彼女の雰囲気とかオーラとかテリトリーとかパーソナルスペースとかそう言うものがぬっと伸び、私の身体を舐め回す様にまとわりついて離さないようだった。
それは、幽霊のような何かを目撃してしまった後、憑かれているのではないかと様々な暗闇を、音を、現象を恐怖してまうような、日常に付いて回る記憶だ。
妄想でしかないのだけれど私は、彼女があの時私に何かを見定め、いつか何か起こすのではないかと危惧してしまう。
これを被害妄想だとか自意識過ゆ剰だとか言うのだろう。
私は心か弱い脆弱な乙女である。
しかしクールになってみればやはりあの少女はただの少女だったのかも知れない。
と言うか当然そうに決まっているだろうと、流石にそれはねぇだろうと、その常識的価値観が私の薄い安心感を根底から支えて揺るぎないものにしていた。
薄いので不安が透けて見えるが、あくまでも常識は常識である。
危惧していたファンタジーやSF、ホラーは往々にして危惧に終わるものである。
そうであらねばならない。
そうであらねばこの世界はたちまち天使と悪魔と死者と魔物に囲まれ幾多の勇者達が剣と魔法を駆使して応戦する中、片や終末の学園にてのほほんと学園バトルコメディラブコメディが繰り広げられるであろう。
私の希薄な人間性と中途半端なキャラクター性は、あの少女と比べてどれほどのものだったのだろうか。
きっと彼女が私を見つめていた真実は、“ただ見ていただけ”なのだろうが、もし私の中の何かに気付き、そこに何かを見出してくれていたのならば私とて人間味を帯びてくるのかも知れない。
このような戯言を脳内に悶々と製造する段階で既に人間味に塗れている可能性も否定できないが。
他人の脳内は見えない。
故に比べることなどできないのだ。
比して私は正常であるか、この世界の小さな歯車として正常なものであるか。
そしてあの少女が、私と比べてどのような存在なのかなど。