透明探し
だからこそ私の中にはあの少女が強く留まり続けた。
顔の、中身の見えないあの少女は私の中で祭り上げられ、高尚な存在と化す。
私の妙な妄想によって特別な存在にされた少女は、一方的に気にかけられた彼女は、実際はどのような人間性でどのような人格をしているのだろうか。

「おはようございます」

やつれ果ててくたびれた装飾を纏って、その言葉は私の思考回路に届いた。
特にやる気もなく、気概もなく彼はそこに立ち竦んでいる。
にこやかに挨拶を返しておこう、先輩としての余裕を見せてやろうと思った。

「おはようございます」

「先輩は、今日もお美しいですね」

彼は半ば私の返事を遮る形で褒め称しへらへらとはにかむ。
彼には常識と節操と言うものが欠如しているように見えたがその点については誰が彼をこけおろそうとも、この世の全てにおののいている私には関係のないことで、たいへん上手におののいた。

彼は先月にこの職場での勤務を始めたばかりの後輩、七条 秋君だ。
日頃てんてこ舞いのこの職場においての美男枠にはまる有望な男性新人で、集客力を中々に上げているのではと言う疑惑すらあるが、何せ重ねて節操がない。
同僚の容貌の良い女性を口説いて回っていたらしく、あろう事か店長をも口説いたという噂だ。
それにいたく感心なさった店長は彼のそのタフネスを生かしてもらおうと当店屈指の繁忙タイムに彼を組み込み、涙を飲ませたという。
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