妖刀奇譚
ぶつかりそうになってひやっとしつつ、來世が鈍いところのある性格でよかったと思葉はほっとした。
「いいよ、幼馴染の特権で見せてあげる」
「やったぜ、おれ真剣とか居合刀は見たことあるけど、太刀はないんだよなー」
「ちなみに言うとこれ、平安時代生まれの太刀だからね」
「まじで!?」
さらに驚く來世に思葉はくすくす笑った。
今よりずっと背の低かったあの日、もし來世に尋ねなかったら、教えてもらわなかったら、きっと今の自分はいない。
なるべく他人には見せたくないと思っていたが、『ほんとうのともだち』である彼なら許せる。
きっと玖皎も嫌がらないでいてくれるはずだ。
「どうした思葉、妙に嬉しそうだな」
「まあね」
思葉は玖皎にだけ聞こえる声で短く返事をした。
今日一日(厳密に言うと午後だけだが)、色々なことを体験したせいか、長かったようなあっという間だったような、不思議な気分になる。
しかし、來世が家に来るのだから、まだまだ賑やかな時間を過ごすことになりそうだ。
ちゃっかり夕食の注文をしてくる來世の肩を叩いて、思葉は横断歩道を渡った。