妖刀奇譚
今日の授業はこれで終わり、あとは清掃活動とホームルームだけだ。
サボる生徒が多いのがこの時間だけれど、クラスメイトはノリのいい人ばかりなので全員積極的に参加する。
思葉も雑巾を片手に棚の整理をした。
「あれ、これ誰のか分かるー?」
箒係の実央が、教室にいる掃除当番の耳に入るように言う。
合唱部期待の星と呼ばれている実央の声はよく通る。
全員が掃除を中断して彼女に注目した。
実央は拾ったのであろうシャープペンシルを見やすくしようと掲げる。
「こーれだーれのー、おーとしーものー」
おかしな節をつけて歌う実央に笑いが起こる。
だが、みんな知らないと答えたり首を振ったりするばかりだった。
「実央さん、ちょっと見せて」
「あ、思葉ちゃん、誰のか分かる?」
曖昧に頷いて思葉はシャープペンシルを手にした。
全体を眺めつつ意識を集中させると、ぼんやりと持ち主らしき人の腕が観えてきた。
学ランの袖、左利き、手首には犬がモチーフとなっている腕時計。
「……これ、多分篠原くんのじゃないかな」
顔までは観えなかったが、ふたつの特徴的な部分で誰かすぐに分かった。
すると実央が両手をぱちんと合わせる。
「すっごーい、思葉ちゃん」
「別にすごくも何ともないよ」