妖刀奇譚





今日の授業はこれで終わり、あとは清掃活動とホームルームだけだ。


サボる生徒が多いのがこの時間だけれど、クラスメイトはノリのいい人ばかりなので全員積極的に参加する。


思葉も雑巾を片手に棚の整理をした。



「あれ、これ誰のか分かるー?」



箒係の実央が、教室にいる掃除当番の耳に入るように言う。


合唱部期待の星と呼ばれている実央の声はよく通る。


全員が掃除を中断して彼女に注目した。


実央は拾ったのであろうシャープペンシルを見やすくしようと掲げる。



「こーれだーれのー、おーとしーものー」



おかしな節をつけて歌う実央に笑いが起こる。


だが、みんな知らないと答えたり首を振ったりするばかりだった。



「実央さん、ちょっと見せて」


「あ、思葉ちゃん、誰のか分かる?」



曖昧に頷いて思葉はシャープペンシルを手にした。


全体を眺めつつ意識を集中させると、ぼんやりと持ち主らしき人の腕が観えてきた。


学ランの袖、左利き、手首には犬がモチーフとなっている腕時計。



「……これ、多分篠原くんのじゃないかな」



顔までは観えなかったが、ふたつの特徴的な部分で誰かすぐに分かった。


すると実央が両手をぱちんと合わせる。



「すっごーい、思葉ちゃん」


「別にすごくも何ともないよ」




< 111 / 376 >

この作品をシェア

pagetop