妖刀奇譚
「えー、ちっともよくないよ、マジむかつく。てか、普通の通り魔って何だし」
「だって通り魔は包丁片手に夜ふらついて、すれ違ったやつ手当たり次第ぶっ刺すもんでしょ?」
「やだそれー」
「確かに普通だけど普通じゃないからね、それ」
思葉は階段を昇りきり、踊り場で振り返る。
先頭をずんずん歩くすらっとした女子が真っ先に目に入った。
ウェーブのかかった長い黒髪を指で遊んでいる。
その背中をウルフカットヘアの女子がふざけて押し、他の3人の女子たちがきゃははと笑って昇降口へと消えていく。
『普通の通り魔』という言葉が妙に引っかかった。
朝のホームルームでも帰りのホームルームでも、担任の口から不審者情報は出なかった。
気持ち悪い、普通の通り魔ではない通り魔。
一体どういう意味なのだろうか。
「思葉ーっ!」
上からやかましいほどに大きな声が降ってきた。
ここは階段でよく響くからなおさらうるさい。
むっとしてそちらに顔を向けると、ほぼ同時に來世が階段を数段とばして目の前に着地した。