妖刀奇譚
思い出すだけでも身の毛がよだつ。
この先お化け屋敷やホラー映画をさほど驚かないのではという気が起こるほど怖かった。
悪霊は厄介かつおぞましいものだと以前永近に教わったが、その何倍も厄介でおぞましいものだった。
少なくとも、髪を自在に操ったり山に棲む獣のように室内を飛び回ったりするのは、たとえ幽霊であっても人間のすることではない。
怨恨が強ければそういう幽霊もいるかもしれないが思葉はそう信じていた。
玖皎が軽くうなずく。
「ああ、あれは人間の霊魂じゃない、付喪神だ」
「付喪神って、妖怪の?」
「そうだ。本体は一瞬しか観えなかったが、女物の櫛だったぞ」
「櫛?」
思葉はぎょっとしてもう一度玖皎を見た。
似たような表情で玖皎が顎を引く。
「な、なんだ」
「その櫛って、もしかして照柿色をしていた?」
「はあ?あー、そう言われてみれば、確かそのような色であった気もするが。
何か心当たりでもあるか?」
(やっぱり)
嫌な予想が的中して、思葉はほっとしたような落胆したような、変な心境になった。
急に疑いの色が濃くなった玖皎の目つきに思葉はう、と息を詰まらせたが、ごまかさずに店番をしていたときの出来事を話した。
聞き終えた玖皎が眉間にしわを寄せて唸る。