妖刀奇譚
「なるほど……店の空気が妙に重いと感じていたが、やはり原因はその櫛だったか」
「気がついていたの?」
尋ねながら、そういえば風呂に入る前に店番の最中について質問されたと思葉は思い出した。
あの質問を投げかけた意図はこれに違いないだろう。
「まあな。しかしあの付喪神、このおれが仕留めきれんかったから相当知恵も力もあるな。
おまえ、さっきは危なかったぞ。
永近が店にかけていた結界がやつの力を抑えてくれたおかげで命拾いしたが」
「え、そうなの!?」
「嘘を言ってどうする。あの結界がなかったら今頃おまえの魂はやつに吸収されている」
お客の目に入らない場所、大きな食器棚の裏や柱時計の裏の壁に永近が手製の札を貼っていることは知っていた。
魔除けの呪いで、心霊の類のものは大抵その呪いで店に入ってこれなくしているらしい。
また、それとは異なる象形のような字を書いた札がもう一つ、番台の畳の下に貼られている。
そちらは一枚だけで結界をつくる働きがあり、入り込んでしまった良くないものを逃がさず祓えるよう、店に閉じ込める力があるのだそうだ。
ちなみにそれと同じ札は裏庭の蔵にも貼ってある。
付喪神の力を抑えてくれたというのはその札だろうか。