妖刀奇譚
玖皎が目を細めた。
「思葉、永近によく感謝しておけ。
呪術がさかんだった頃の者たちに比べればいささか劣るが、神仏への信仰心が薄れつつあるこの時代においてあそこまでの力をもつ人間は珍しいぞ。
妖怪や霊魂の類を観たり聴いたりできないのが不思議でならないくらいにな」
「うん……あ、お店の中は大丈夫だった?変なものとか居たりとかしていない?」
あの付喪神が逃げ出したということは、結界が破られたということ。
そして、破られたということは閉じ込められていたものたちが自由に動き回れるようになったということだ。
もし店になにか居て、それが外に出るのならまだしも(それはそれで困るが)、家の中を徘徊していたらと考えたら急に心配になってきた。
玖皎が右手をひらつかせながら首を振った。
「安心しろ、今あそこにはなにも居らん。
永近がきれいに祓っておいたのか、それともあの付喪神が残らず吸収してしまったのかまでは知らぬが」
「そっか……良かった」
吸収という玖皎の言い回しに少し寒気を覚えたがあまり気にしないようにする。
玖皎がふいと顔を窓の方へ向けた。
トラックだろうか重たいエンジン音が、店の前を通り過ぎていく。