妖刀奇譚
「それにしても、まさか格の低い付喪神にあれだけ形のはっきりした層をつくり出す力があるとはな。
よほど妖力を身に着けていたのか、抑えられていたから正しく測れはしなかったが」
「ソウ?」
「平たく言えば、現実とよく似た姿をした異空間だな。
さんざん暴れられていたのに、店の物は一つも壊されていなかっただろう?
おまえがさっきまで付喪神に襲われていた場所は、やつが店とそっくりにつくった層だ。
結界で明確に仕切られていたのを逆手に取ったんだろう」
現実離れした話に、思葉の頭は理解に苦しくなる。
陰陽師やその系統の術師が活躍する文庫本や資料を探して勉強してみようと思った。
「……よく分からないけど、あそこは本当の満刀根屋じゃなかったってことね」
「そういうことだ。
だが、あの層は永近の結界の内側につくられていたから、自在に広がることはできず、自分から向かわなければ入れなかったはずだ。
おまえ、よくそんな無防備でのこのこ行ったな。
不穏な空気くらい感じ取れたろうに」
玖皎が呆れた調子で笑う。
唇をとがらせて思葉はむくれた。