妖刀奇譚
振り返ってみれば、それは思葉が決して進んでやろうと思わない行為だった。
人とのつながりを疎ましくは考えないが、自分の感情を整理して的確な言葉で表すのは苦手だ。
それを玖皎に向かって真剣になってやっていた自分が、別人のように思えてくる。
(自分で自分に振り回されてたみたいになっていたけど、ちゃんと話せたかな。
でも、玖皎に気づいてもらえてよかった。
あのまま立ち止まっているのはきっとダメなことだから……琴姫さんも、望んでいないことだから……)
思葉は長く息を吐いた。
櫛の付喪神に、人型になった玖皎、彼の過去にあったこと、色んなことが起こりすぎて、まだ噛み砕ききれていない。
半分夢を見ているような心地がしている。
それらについて整理しようと思ったが、もう限界が来ていた。
寝返りをうつや否や、付喪神について思い出す前に前後不覚に眠り込んでしまった。
ちく、たく、静かな部屋に規則正しく時を刻む音が鳴る。
「罪は償うもの、か……」
秒針の音より小さな声で、玖皎はそう呟いた。
普通ではない、不思議な出来事が起こった夜は更けていった。