妖刀奇譚
怨
目覚まし時計をかけ忘れたのもあり、思葉は普段よりかなり寝坊してしまった。
昨夜の奇想天外な出来事は、それだけ体に負担を与えていたようである。
選挙カーだろうか、メガホンを通して届いてくるやたらとテンションの高い女性の声で、思葉はのろのろ目を開けた。
目をこすってベッドに起き上がり、時計を見て、あと2時間もすればお昼であることを認識する。
日曜日であっても永近と一緒に早起きをしているので、なんだかもったいないことをした気分になった。
けれどもたくさん睡眠時間を取ったおかげで身体はすっきりしている。
「よく眠れたか?」
「ん……おはよ、玖皎」
「ああ、おはよう」
声をかけてきた玖皎は、昨日付喪神がつくりだした層に誘い込まれる前と同じ姿をしていた。
つまり人型になっていないのである。
「まだ恢復しきれていないの?」
思葉が昼食も兼ねた朝食を摂り、着替えを済ませて部屋に戻っても、玖皎は相変わらず太刀のままだった。
尋ねてみると、太刀から不服そうな声が返ってきた。
「分からんな、おれの感覚ではもう元気なんだが。
人型になるのは初めてだからな、もしかしたら、思っている以上に負担だったのかもしれん」
「久々に妖力を使ったし?」
「……まあ、それもあるかもしれんな」
仏頂面を浮かべる玖皎を想像して思葉は小さく笑った。