妖刀奇譚
朝からそこまでテンションは上がらない。
來世は小さく首をかしげ、その横に並んだ。
赤信号で止まったところで思葉の顔をのぞき込む。
「仮店長、どうかしたんすか?」
「なによ、仮店長って」
「だって今満刀根のじいちゃんの代わりに店長やってんだろ。
そんなら仮店長じゃん、『店長代理』じゃなんか恰好つかねえだろ」
「はあ?恰好つかないって意味分かんない」
信号が青に変わり、『故郷の空』のメロディが流れ始める。
早足でこちらに向かってくるサラリーマンにぶつからないよう、2人は脇に逸れて横断歩道を渡った。
難しい顔をして歩く黒系のコートの集団は少し怖い。
「今日は寝坊でもしたのか?
思葉がおれと同じ時間帯にここ歩いてるのって珍しいよな」
「別に……ちょっと支度が遅くなったから」
言いながら思葉はあくびをした。
歩いているうちに身体が温まってきたせいだろうか、頭の芯がぼーっとする。
足元もやや千鳥足になっているが、気づいたのは本人ではなく來世の方だった。
「あ、もしかして、満刀根のじいちゃんがいないから羽目外して、夜更かしでもしたのか?
なんか今週入ってからずっと眠そうにしてるし」