妖刀奇譚
それをしまいこむようにして黒いキャスケットをかぶり、厚手の黒いフリースを着て、さらにその上から黒いパーカーを羽織った。
下半身は黒のショートパンツに黒タイツ、これから履くスニーカーも黒だ。
頭からつま先まで、肌が出ているところ以外すべて真っ黒である。
もちろん、闇に乗じて動き回るための格好だ。
動きにくいし汚れると洗うのが面倒なので、コートは我慢する。
「これ、昼間に歩いていたら職質されるよね……」
全身鏡に映る自分を見て、思葉は苦笑した。
この5日間もずっと真っ黒な恰好をしていて、玖皎に『影法師か』と笑われた。
玖皎は補導員という存在を知らないし捕まる心配もないから、そういうことが言えるのである。
クッキーを食べ切り、お茶を流し込んで時計を確認すると、10時過ぎを示していた。
一呼吸して、思葉は必要最低限の荷物を入れた黒いウエストポーチを巻き、黒い鞘袋にしまった玖皎を背負った。
戸締りを確認してから外に出る。
「……さ、寒っ。誰よ、曇りならちょっとはあったかいとか言ったやつ!」
「文句を言うな、動いていりゃ身体も温まるだろ」
「そうなんだけどさ……」