妖刀奇譚
『髪を、奇麗に、奇麗な髪に……』
きっと付喪神も、初めから心を持たなかったわけではないのだろう。
ただ、それを主人に気付いてもらえなかっただけで、誰にも伝えることができなかっただけで。
本当はただ純粋に、持ち主の髪を奇麗にする手伝いをしたかったはずだ。
主人の強烈な負の思念に頭から呑み込まれ、その中で本来の自我を失っていたのだ。
うわ言を呟いていた思葉と同じ状態だったのである。
腕の中で、思葉は抱きしめている実体が小さくなるのを感じた。
もう付喪神から敵意は感じられない。
身体を離してやると、主人に似せたおどろおどろしい姿は、おかっぱ頭に照柿色の四つ身を着たあどけない童女の姿に変わっていた。
今にも泣き出しそうな、少し怯えた顔をしている。
思葉はふっくらとした頬を両手でそっと包み込んでやった。
「大丈夫だよ、もう怒っていないから。
あたしたちこそ、怖い思いをさせちゃってごめんね?
もっと早く気が付いてあげられれば良かったわ」
思葉は目だけで玖皎に同意を求める。
刃を鞘に納めてはいるもののずっと警戒していた玖皎は、どこか腑に落ちないといった顔をしていたが頷いた。