妖刀奇譚
ね?と安心させるつもりで言うと、付喪神はどうしてか上唇と下唇を内側に丸めて俯いた。
四つ身の裾を握りながら、ちらりちらりと思葉の顔へ、その後方に視線を投げる。
振り返ってみたが何もいない。
だが、やはり付喪神は思葉の首の後ろや額のあたりを盗み見てくる。
意味が分からず困惑していると、玖皎が小声で思葉を呼び、むすっとした表情のまま無言で自分の頭を指差した。
そのジェスチャーを観て閃く。
「……もしかして、あたしの髪を奇麗にしてくれるの?」
すると付喪神は金色の瞳を輝かせ、こくこくと首を上下に動かした。
いつの間にか、右手首から上が飾り櫛の歯に変わっている。
「じゃあ、お願いしようかな」
思葉は纏めただけでそのままにしていた髪をほどく。
付喪神は軽い足取りで背後に回ると、変化させた右手を使って思葉の髪を丁寧に梳かし始めた。
少し離れたところにいる玖皎は身体から力を抜いて、けれども左手は鞘口のあたりを押さえながら付喪神を見つめている。
思葉は僅かに首を前に傾けて目を閉じた。