妖刀奇譚
手甲を巻いた骨ばった手があっという間に近づく。
ひどく焦った表情の玖皎が観える。
そして――彼のすぐ後ろから、自分に向かって身を投げ出してくる十二単姿の若い女を観た。
永近から太刀を受け取ろうとしたとき、思葉が玖皎に「触るな」と怒鳴られたときにわずかな間だけ観えた女だ。
少女というべきだろうか、白く整った優しげな面輪をしている。
笑顔を浮かべていた。
歳は思葉とそう変わらないか、少し幼いくらいだろう。
けれども雰囲気はとても大人びている。
(……誰?)
芯がぼうっとしてきた頭に思葉は疑問を浮かべる。
玖皎よりも先にたどり着いたその女は、思葉の首に腕を絡めた。
包みこまれるように抱きしめられながら、思葉は穏やかな温もりと何かの香りを感じる。
だが、それも一瞬だった。
いきなり温かな眠気に意識が引っ張られ、思葉は抵抗することなくすうっと目を閉じた。
視界が優しい闇に呑み込まれる。
遠く、鈴の音が聴こえた。