妖刀奇譚
姫
――………リン…………
――……チリン………
――チリン…
清らかな鈴の音が聴こえる。
それは等間隔に、徐々にこちらに近づきながら響いた。
「姫さま、こちらが姫さまをお守りしてくださる、陰陽師の方でございます」
突然、人の声が傍で起こった。
視界はもう暗くなく、そこは奥まった広い和室だった。
衝立や几帳・屏風が置いてある。
奥には御簾に囲まれた一段高くなった畳と、いくつかの調度品があった。
目の前に直衣姿の男が、傍らに花田(はなだ)色の小袿を纏った女がいる、声の主はこの女だろう。
男が恭しくこうべを垂れた。
「播谷道臣と申します」
聞き覚えのある名だ。
どこで耳にしたかと思葉が記憶を辿ろうとすると、女の反対隣からまた別の声がした。
「道臣どのはかの名高い陰陽師、安倍晴明どのに認められたお方。
この山寺に暮らすわたくしたちにとって、こんなにも心強く頼もしいお方はいらっしゃらぬ」
蘇芳香の小袿に袖を通し、脇息に寄りかかった年増盛りを過ぎた女だった。
その佇まいや口調、女と道臣の反応から、身分の高い人だということはなんとなくわかる。
しかし、姫と呼ぶにはいささか年寄りだった。
女が「姫さま」と呼んだのは、この女ではないのだろう。