妖刀奇譚





すると、とても幼く無垢な声が起こった。



「式が宿る太刀?それは一体なんなの?」



びっくりするくらい近くから聞こえて、思葉は自分が喋ったのかと錯覚しそうになった。


いや、実際に唇が動き、その奥から今の声が出たというのは分かった。


混乱する思葉をよそに道臣が続ける。



「晴明どのが調伏し、彼の弟子であり刀工である三条弼柾どのが鍛えた太刀でございます。


それは人を斬るのではなく、妖を斬り葬るためにつくられました。


元は刀を肉体とし、人を襲ってはその魂を屠る妖怪でしたが、晴明どのの術に敗れて以来、あのお方の強力な式として仕えていました。


一見ただの太刀に見えますが、魂が宿っているのです。


わたしのように見鬼の才をもつ者であれば、その声を聴くことができます」



(ああ、これは記憶だわ、多分、あの女の人の……)



ようやく、播谷道臣という人物が、晴明の式から外れた玖皎を片手に山寺の警護に当たった陰陽師であると思い出した。


そうなると、この幼い声の主は、彼らが護衛を任された琴姫だ。




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