妖刀奇譚
「……そなたは本当に心優しいのだな。
あの子も、もっと早くにそなたと巡り合えたら良かったであろうに」
「琴さん」
「すまぬな、わらわにはもう一刻の猶予もないのじゃ」
思葉の手から、琴の手首がすり抜ける。
琴が抜いたのではない、掴めなくなっていたのだ。
「魂とはとても脆弱なもの、千年を超えた今も保ち続けられるはずがない。
本来ならば、わらわはとうの昔に消滅していた……阿毘(あび)たちに力を貸してもらえなければ、そなたに会うこともなかったのじゃ」
「あび?」
「地獄の使いたちの名じゃ。
獄卒と同じく閻魔王に仕え、此岸と彼岸の狭間に住み、此岸に残る霊魂と妖怪を見張っておる。
死んで霊魂のみとなったとき、わらわは迎えに来た阿毘たちに頼み込んだのじゃ。
玖皎が幸せになるのを見届けるまでそちらへは渡りとうない、悪霊のように力を求めずにおるから、せめて見守ることだけは許しておくれ……とな。
そなたにわらわの記憶を観せられたのも、こうしてそなたに会えたのも、彼奴らがわらわに力を貸してくれたからじゃ」
説明を受けて思葉は納得した。
自分にはなんの力もないという琴の発言と、今自分が体験したことや置かれている状況に矛盾を感じていたのだ。
琴が唐衣に触れ、足元に視線を落とす。