妖刀奇譚
「わらわは目的を果たした、これ以上わがままを言うわけにもいかぬだろう。
そもそも、そなたと会うことだって、本来ならば認められないことであったのだ。
わらわをずっと見張っておった阿毘を従える者が許してくれたから叶ったことなのじゃ」
「そんな……だったらなんで、あたしなんかに会おうと思ったのよ?
玖皎に会ってあげなかったのはどうしてなの!?」
「……どうしてもわらわの気持ちを、わらわの望みを託したかったのじゃ」
ハッと気が付くと、琴の足元が闇に透けていた。
残っている身体も徐々に薄くなっている。
「思葉よ、わらわの願いを知ってくれた唯一の娘よ、どうかあの子を幸せにしてやっておくれ。
あの子の声が聴け、その姿が観えるそなたになら任せられる。
……これはそなたにしか頼めぬ。
此岸に住まう者の中でそなたただ一人じゃ」
「琴さ」
「あの子を慈しんでやって……いつまでも大切にしてやっておくれ」
「琴さんっ!」
一歩踏み出した瞬間、突然琴の姿が遠ざかり始めた。
思葉は必死で走り寄ろうとするが、距離は縮まるどころか広がっていくばかり。
そして、琴の姿も闇に蝕まれていく。
「琴さん、待って、お願いだから行かないで!」
走りながら思葉は手を伸ばした。
だが、肩から上だけになった琴の姿だけでなく、自分の腕まで見えにくくなる。
視界が闇に塗り込められていく。
(駄目……このまま行くなんて、絶対に駄目だよ!)
叫んだつもりだったが声にならなかった。
何も観えない完全な闇となった空間で、思葉は鈴の音を聞いた。