妖刀奇譚
繋
車のエンジン音が通り過ぎる。
布団の上に横たえているらしかった。
石鹸の香りが鼻を撫でる。
毎日感じている、夢から覚める感触がした。
外に散らばるものを感じながら、ゆっくりと知覚を取り戻していく。
意識が夢から現へと戻っていく。
(ここは……)
思葉はまだはっきりとしない頭でまずそれを考える。
わずかに身じろぎし、場所を確認しようと薄く目を開けた。
視界は暗く、日の出までまだ時間があると分かる。
男の顔が映る。
磨き上げられた黒玉の瞳、透き通るような白い肌、それよりも真っ白な髪。
長い睫が、整った鼻梁がとても近くに観える。
どちらかが動いたら、うっかり唇が触れ合いそうなほど近く……
「きゃああっ!?」
ぱっと目が醒め、思葉は驚いて飛び起きていた。
はずみで後頭部をしたたか窓枠にぶつけ、そこを抱えて両膝小僧に顔を埋める。
目に電光がちかちか瞬いた。
「痛っ、た……」
「……何しているんだ、おまえ」
玖皎が起き上がり、訝しそうに思葉を見る。
痛みの波が収まってから、思葉は涙のにじむ目で奇麗に整った顔を睨みつけた。