妖刀奇譚
くしゃくしゃになった髪を整えながら、あれ、と思葉は首を傾げた。
何か、とんでもなく大切なことを忘れている気がする。
まだ頭に霧がかかっているような、心許ない感覚があった。
額を押さえ、目を閉じる。
夢の中で、誰かと会っていた。
そこで大きな頼まれごとをされた、大きなものを託されたのだ。
誰に?何を?
肝心なところが思い出せない。
夢特有の、厄介な特徴だ。
「どうした、頭でも痛むのか?
水かなにか飲んだ方がいいのではないか」
「ううん、大丈夫、なんでもないよ」
思葉は小さく首を振って気息を整えた。
自分の鼓動を数え、身の内にある暗闇に意識を集中させる。
思い出せ、自分は誰に会った、何を託された。
早く、早く……。
――チリン。
鈴の音が転がる。
瞬間、思葉の頭にかかっていた霧が晴れた。
今しがた観ていた夢を思い出す、抱いていた感情のことごとくを思い出す。
(そうだ、のんびりしている場合じゃなかった)