妖刀奇譚
「うおっ」
玖皎が小さく驚いた声を発する。
思葉はベッドの上に立ち上がっていた。
急な動きのせいでこめかみのあたりが鈍く疼き、視界に渦が巻く。
よろめいた身体を支えようとした右足をシーツにとられ、思葉はバランスを崩してすっ転んだ。
勢い余ってそのままベッドから落ちる。
「あだっ!」
とっさに手をついたが、寝起きのせいか腕にはほとんど力が入らなかった。
肘で情けなく折れ曲がり、顎を床にぶつける。
「おいおい、本当にどうしたんだよ。いつになくそそっかしいじゃないか、あと鈍臭い」
「玖皎!」
「な、何だよ、急にでかい声を出すな」
文句を無視し、思葉は自分を助け起こそうと片膝をついた玖皎に詰め寄った。
「玖皎、あんたこのままでいいの!?」
「は?このままとは何が」
「さっき夢の中で会ったのよ、琴さんと。
琴さん、山賊に斬られて死んじゃってもずっと、成仏しないであんたのこと見てくれてたって。
あんたに気付いてもらえるほど波動は強くなかったし、声は聴こえなかったけど、でも、ずっと見守ってくれてたって。
……でも、もう時間がないの。
琴さん、この世に留まっていられなくて、あっちの世界に渡らなくちゃいけないって言ってた。
それであたしの夢に出てきて、あたしに」