妖刀奇譚
「琴さんは、あんたが神社から出て最初にあんたの新しい主になった人を見届けてから、あっちの世界へ行くつもりだったって言ってた。
閻魔の部下の阿毘との約束だから、破るわけにはいかないって……。
だけど、このままでいいの?
このまま琴さんがあっちへ行っちゃったら、もう二度と会えないんだよ?」
思葉は半ば叫ぶように尋ねた。
ますます玖皎が表情を堅くさせる。
眉間にシワを寄せ、思葉の視線から逃れるように顔を背けた。
「……いいも悪いもないだろう。
それが、姫が阿毘と交わした約定であるのなら、覆すことなどできん」
「そんなこと」
「それに、姫の耳におれの声は届かないのだろう?
おれにも姫の姿や声を観聴きすることはできない……だったら会いたいと望むだけ無駄だ。
姫がこのまま彼岸へお渡りになるのなら、おれもこのままでいい」
玖皎の物言いは、どこか投げやりなものになっていた。
まるで琴と同じだった。
思葉は床に座りこみ、俯いてカーペットを睨む。
悲しさと怒りが綯い交ぜになった感情が、熱く苦いものになって身体の芯から湧き上がってくる。
「……どうして諦めるのよ」
低い声が喉の奥から出た。
思葉は深く息を吸い、泣きそうになるのをこらえて床を殴った。