妖刀奇譚
「琴さんもあんたも……なんで、なんで最初から諦めちゃうのよ。
本当は会いたくてたまらないくせに、どうして、会いたいって言わないのよ。
どうしてそう望まないのよ。
そう思わなくちゃ、本当にどうすることもできないんだよ……!」
もう一度、拳の側面を床にぶつける。
その手を反対の手で握りこみ、両手を胸へ引き寄せた。
痛い、たまらなく痛い。
殴った手ではなく、胸が痛い。
「思葉……」
玖皎が呟くように思葉を呼ぶ。
顔つきはいくらか和らいだが、ひどく悲しげだった。
それを観て思葉は唇を噛む。
(ばか……そんな顔している暇があったら、琴さんと会いたいって願ってよ……。
琴さんだって……二人とも、会いたいと思っているくせに)
そう言ってやりたかったが、胸がつかえて声が出せなかった。
思葉は歯を食いしばり、服の胸のあたりを握りしめた。
閉じた目尻から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
(阿毘……まだ琴さんを連れて行っていないんだったら、もう少し待ってよ。
もし近くにいるなら、玖皎と会わせてあげて……あたしにできたのなら、玖皎にだってしてあげられるでしょ?
琴さんは千年も玖皎を見守り続けたんだよ、玖皎はずっと、琴さんにしてしまったことを後悔して生きてきたんだよ。
このまま今生のお別れだなんて……そんな悲しいことをしてあげないで。
閻魔のお使いだか破ってはいけない約束だか何だか知らないけど、少しくらい情けをかけてくれたっていいじゃない……!)