妖刀奇譚
「嘘ですね」
「はい?」
「だってこの掛け軸があるの、京都の寺院ですもん。
名前までは覚えていませんが、調べれば多分出てくると思います、來世」
「え?あ、おう」
突然名前を呼ばれた來世はとっさに返事をし、遅れて意味を理解してスマートフォンを手にした。
長谷部の顔に再び冷や汗がにじんでいく。
「……あ、あったぜ。
ええと、『楼閣山水図(紙本墨画山水図) 場所:京都・金地院(こんちいん)』……だってさ。
へえ、思葉の言う通りだ。
じゃあここのお坊さんがコレクターなのか?
なんだそれ、煩悩ありまくりじゃん」
來世が自分で言って自分で笑う。
長谷部は口をもぞりと動かしていたが、言葉にはならなかった。
思葉は來世の手からスマートフォンを抜き取り、そのページの上部に書いてある字を拡大して長谷部に見せた。
「それにほら、ここ、よく見てください。
『重要文化財一覧・絵画編』って書いてありますよ。
国指定の重要文化財なのに、その価値に見合わない金額で売買するなんておかしくありませんか?」
とうとう長谷部は黙ってしまった。
「はいよ。來世、思葉ちゃん、お待ちどおさま」
二人分の湯呑と追加のお茶菓子を載せたお盆を持った富美子が戻ってくる。
しかしそこにはもう長谷部と掛け軸の姿はなく、笑いすぎて苦しそうに呼吸する來世と、やりきった顔で最中を食べる思葉がいるだけだった。