妖刀奇譚
「いいよって言ったの」
「えっと……それはノーサンキューの『いいよ』じゃなくて、イエスの方の『いいよ』って意味っすか?」
思葉はため息をついて手を腰に当てた。
「なによその反応。人がせっかく行ってあげるって答えたのに」
「あ、いや……だって、思葉いつも最初は断るからさ、ちょっとびっくりして」
「断っても承諾しても驚かれたら、何て返せばいいのよ。
そんな反応するなら行ってあげないわよ」
「わー、すみません、嘘です嘘うそ!
ありがと思葉、まじ感謝!感謝感激雨あられ!」
「声が大きい!」
來世の頭を容赦なく叩き、思葉は教室へと歩き出す。
後を追いかけながら、來世は幼馴染の背中を軽く叩いた。
「どうしたんだよ」
「なにが」
「いつも断るのに断らなかった理由。
なんだよ、心境の変化か?」
「……まあ、そんなところかな」
自分にできることを精いっぱいやる。
自分が正しいと思ったことを精いっぱいやる。
きっとそれが答えになるから。
部屋に置いてきた、一振りの太刀が眼裏に浮かび上がる。
それを持ち、闇に向かって抜刀する青年の姿が観える。
(――檆葉丸)
胸の内で、思葉は彼の名前を呼んだ。
[完]