妖刀奇譚
「だからお花見って言ってるでしょ。
4月入ったら忙しくてそれどころじゃなくなるし、今咲き始めてるなら丁度いいじゃん。
おじいちゃんにお使い頼まれなかったら来なかったよ」
「それは聞いたが、わざわざこの乗り物を使って遠くまで行く必要があるか?
おれはともかく、おまえは乗るのに金がかかるのだろう」
「そんなの仕方ないわ、咲いているのは山なんだから自力で行くのは無理だよ。
運賃はおじいちゃんからもらってるから気にしないで。
それに人が大勢いるような場所だと、あんたと喋りにくくなるでしょ」
「……まあ、それはそうだが…」
玖皎が拗ねたように唇を尖らせる。
思葉は脚を組み替えて再び窓の向こう側へと視線を滑らせた。
すっかり田舎特有の、圧倒的に緑の割合が高い風景となっている。
(まあ、お花見ってのはほとんど嘘なんだけどね)
次の駅のアナウンスをする車掌の声を聞きながら、思葉はこっそりと笑った。
駅に降り、軽く伸びをする。
田舎らしく、ホームと小さな改札以外に何もない駅だった。
降りたのも思葉一人だけである。
「驚いた、こんなに人影の見当たらない街は珍しい」
玖皎が駅の出入り口から、民家が立ち並ぶ通りを眺める。
こぢんまりとした商店街もあった。
「まあ、街というよりは村だしね、こっちだよ」
思葉はスマートフォンの地図アプリを開き、反対の道を歩き始めた。
本体の太刀を持っているのは彼女なので、玖皎はついて行かざるを得なくなる。
「どこへ行くんだ」
「ついて来れば分かるよー、というか、あんたがよく知ってる場所だよ」
「はあ?」