妖刀奇譚
思葉は笑いそうになって横を向いた。
学校を出るときに、來世が自分から提案した交換条件だ。
思葉はすっか忘れていたし、正直なところ、やってもやらなくてもどっちでもよかった。
あの提案を受けて富美子の家に行ったわけではない。
でも來世はそんな些細な約束を忘れずに守る。
だからできる約束しかしない。
幼馴染みのこういう律儀なところを思葉は気に入っていた。
「今日おじいちゃんから店番とか何にも言われなければ空いてるよ」
「そっか」
「てかそれ、部活に入ってないし習い事もしてないやつに聞く?
嫌味にしか聞こえないわよ」
「怒るなって、じゃあ何にもなけりゃウチでやろうぜ。
思葉の家だと気が散るからさ」
「気が散るって、お店見たいだの蔵覗きたいだの言うのは來世の好奇心旺盛すぎなところが原因でしょ。
あたしの家が集中力下げさせてるみたいな言い方しないの」
「さーせん、で、教科はどうする?おれ、古典と英語やりたいな」
「あたしは古典と現代文と英語以外がやりたい」
「おまえ、国語と英語だけはいつもおれに勝ってるもんな」
「あんたが悪いっていえる教科がそれだけしかないのがムカつく。
先生に内職してることちくって内申点下げてもらおうかな」
「うわ、せこい!」
「冗談に決まってんでしょ、ばか」
「いーや、今目がマジだった」