妖刀奇譚
文句を言う代わりに思葉は鞄を振る。
遠心力で加速した鞄は、來世の背負っているリュックにヒットした。
荷物で厚くなっているリュック越しにも衝撃は十分伝わったのだろう、來世が海老ぞりになってよろめく。
通りかかった中学年くらいの小学生が3人、來世を指差して元気な声で笑う。
体勢を直した來世がおどけて「今笑ったなー!」と言うと、楽しそうに悲鳴をあげて横道に入っていった。
軽い足音が団地の方に消えていく。
「ま、教科はまた明日にでも決めようぜ。
別に一つにしぼる必要もないだろ」
「そうだね」
話が一段落したところで別れ道に差し掛かり、來世はそのまま真っ直ぐ進んで住宅街に向かった。
思葉は表通りに繋がっている細道を歩く。
表通りを行き交う何台もの車のエンジン音や走行音がここまで響いてくる。
「……あ、今日はあたしがご飯つくる日だ」
食事はほとんど永近が用意してくれるが、高校に入学してからはたまに思葉が引き受けるようになっていた。
藍色が混ざり始めた空気をぼんやり見ながら、思葉は冷蔵庫に何が残っていたのかを思い出す。