妖刀奇譚
「ねえ、何かあったの?」
「花瓶が割れていたんだってさ」
「花瓶?」
來世が顔も上げずに頷く。
思葉はもう一度ロッカーに目をやった。
確かにあそこには白い花瓶があって、いつも華道部の子が花を飾っていた。
今、ロッカーの上にも教室内のどの棚にも花瓶は見当たらず、半円はちょうど、その花瓶が昨日まで置いてあったところの手前にできている。
あそこに落ちたのだろう。
シャーペンを止めた來世が顔をあげ、ひそめた声を出した。
「おれも詳しくは知らねえけどよ。
井上と三谷が朝来たときには割れていたらしいぜ。
ほら、あいつらっていつも一番乗りだろ?」
「知らない」
「そんくらい知っとけよ。それで、おれが来る前からずーっとあんな感じ。
ま、野次馬はあんなにいなかったけどな」
思葉は三度、人だかりを見た。
少し身を屈めて彼らの足元を覗くと、床には水がこぼれ、その上に桃色の花と濃い紫色の花、そして砕けた花瓶の白い破片が散らばっていた。
ずん、と胸が重くなるのを感じる。
物が壊れるのは好きじゃない。