妖刀奇譚
(何にしよっかなあ。
海老が残っていたら久しぶりにエビチリでも作ろうかな。
あ、でもおじいちゃん長芋食べたくていっぱい買ってたからそれも使わないと……)
爪先にこつんと軽い衝撃が走る。
小石を蹴飛ばしたらしく、それは勢い良く転がって反対側の電柱に当たった。
そういえば夏休み前、学校から小石を蹴り続けて家まで帰れたらいいことが起きる、なんておまじないがはやっていた。
(高校生にもなって何にハマってるんだか)
思葉は苦く笑って首を振った。
さわさわ風が吹き抜ける。
「ん?」
ふいに視線を感じた。
誰かに見られている感覚が首のうしろに張り付く。
思葉は足を止めて振り返った。
誰もいない、歩いているのは思葉だけだ。
何となく気になって、道を挟んでいる建物をざっと見回してみた。
窓が開いている家もあったが、どこにも人の姿は見当たらない。
「……気のせい?」
窓も何もついていない蔵を最後に見上げて思葉は首をかしげた。
今、確かに誰かに見られていた。
なのに姿が見つからないのは何故だろう。
「うん、気のせい、気のせい」
こういう事はあまり気に止めない方がいいと永近に言われている。
声に出して自分に言い聞かせ、まだ気にしようとしている足を無理やり動かして思葉は家を目指した。