妖刀奇譚





気を紛らすために夕食のメニュー候補を声に出しながらずんずん進む。


途中で誰ともすれ違わなくて助かった。


思葉の家は年季の入った2階建ての民家で、1階の表通りに面している部屋を改造して骨董品屋を営んでいる。


まだ営業時間内なので、勝手口から入ろうと裏庭に回る。



「あ、おじいちゃんまた鍵掛け忘れてる。不用心だなぁ……」



手鞠と蹴鞠のストラップをつけた鍵を鞄に放りこむ。


念のために蔵へ走り、大きな南京錠がしっかり掛かっているのを確認してから家に入った。


台所を抜け、藍色の暖簾をめくり、『骨董品店 満刀根(まとね)屋』に続く曇り硝子の引き戸を開ける。


開けてすぐのところは番台になっており、そこに座っていた永近が振り返った。



「ただいまー」


「おう、お帰り」


「おじいちゃん、お勝手の鍵……なにしてんの?」



鞄を部屋に置きに行こうと離れかけて、思葉はもう一度祖父を見た。


祖父というより、祖父が持っているものをである。



「なにって、預かりものの確認じゃよ」



ほれ、と永近が持っているものを思葉に見せた。


一振りの刀だった、しかも抜き身である。




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