妖刀奇譚





三条、という二文字だけ彫ってある。


裏面も覗いてみたが、そちらは何もないつるりとした面だった。



「これは三条派の刀工だな。


三条派では平安時代に活躍した、山城派開祖の三条宗近が有名だが、彼の作品ではないのう。


彼の弟子か、あるいは息子の作品とみて違いないだろう」


「なんで分かるの?」


「少しは勉強してみい」



また頭を叩かれ、思葉は後で誕生日プレゼントにもらったノートパソコンでネットサーフィンしようと決めた。


刀工についての資料は手元にないのだ。


永近は刀身をじっくり観察する。


老眼鏡の奥でアイスティー色の目を細めた。



「平安の、恐らく一条天皇の頃につくられた太刀だな。


しかしこの刃文は初めて見る……沸出来(にえでき)だというのは分かるが。


まあ、教育委員会の鑑定が行われて美術館ではなく家に来たということは、そこまでの価値がないと判断されたんだろうな」



満刀根屋に持ち込まれる鑑賞用の日本刀の刃文は、大半が直刃(すぐは)や湾れ刃(のたれば)などだ。


居合い斬りに用いられていた真剣も同様である。


それ以外の刃文も名前までは覚えていないが写真で見たことがある。




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