妖刀奇譚
だがこの太刀の刃文は、思葉が目にしたことのあるどの刃文とも異なっていた。
大小さまざまな大きさの白い斑点が重なり合い、その列が緩やかに波打つ刃縁をつくっている。
淡雪のようで奇麗だな、と思葉は感じた。
永近は菊透かしの鍔を刀身に通して切羽と縁でしっかりはめ、組紐を巻きしめた濃紺地の鞘に刀身をしまった。
茎を確認するために外した柄を丁寧につけ、目釘をさす。
その過程を思葉は傍でじっと観察していた。
永近の物を扱う手つきや修補の丁寧さは、思わず見とれてしまうほど美しいのだ。
自分もいつか、祖父のように物を扱えるようになりたいと思う。
しかしきちんと大学を出なければ、永近が持っている技術は教えてもらえない。
(……勉強しないとなぁ)
模試のことを思い出して、思葉はややげんなりと下を向く。
そのとき、太刀の柄が目に留まった。
「この柄、けっこう傷んでいるね」
柄巻は色あせ、途中でちぎれている個所がある。
中にある鮫肌も縮んでおり、目貫についている汚れは目立ち、兜金や縁、鍔は錆びついている。
柄がこんなに傷んでいるのに、同じ拵えの鞘はそれに比べてきれいだ。
それより平安時代に鍛えられた刀がまったく刃こぼれしていないのが一番の驚きである。
永近が眼鏡をかけ直した。