妖刀奇譚
「そうだな、また近いうちに鮫肌から巻き直さんとな。
まあ、この太刀は古いものだから風化しているのは仕方無い。
平安時代の刀工の作品だ、刀身だけじゃなくて拵えまできれいに残っていたらその方が奇妙だろ?」
「それもそうだね。というか、この刀はどうしたの?
また横手さんの蔵から出てきたもの?」
横手さんとはこのあたりでは有名な収集家だ。
家も大きな日本家屋で、満刀根屋のそれの3倍近くはある蔵を2つも持っているのだ。
すると永近が右手をひらひら振った。
「違う違う、あの人が興味持っているのは壺と日本画と陶器だけだ。
日本刀なんか視界に入れん、この太刀はな」
すると、表通りに面している木製のドアが開いた。
車の往来の音がぐっと近づき、戸が閉まってまた離れる。
スーツ姿のやや小太りな男が書類の束を脇に抱えて番台へ寄ってきた。
市役所に勤務している十津川(とつかわ)である。
「すみません、満刀根さん。急に引き取って頂くことになってしまいまして」
「構いやせんよ、これがうちの仕事ですからね」
「それでその刀は……おや思葉ちゃん、こんばんは。
今学校から帰ってきたのかい?」