妖刀奇譚
十津川が腰を深く折る。
永近は笑いながら首を横に振った。
「いやいや、これが名刀だったり名匠の業物だったらうちが引き取るわけにはいかなかったが、どうやらそういう物ではなさそうだからのう。
なあに、この間引き取った壺と同じだ。
打刀ではない日本刀が一本増えるだけじゃ、気にせんでくれ」
「本当にありがとうございます。
それででしてね、登録証発行に際する手数料については……」
大人同士の難しい話が始まる。
思葉は邪魔にならないようにと鞄を持って立ち上がった。
すると永近が振り返って呼び止める。
「思葉」
「なに?」
「すまんがこの太刀を持って奥に行っといてくれ。
ここに置いとくわけにいかんからな」
確かに番台の中はファイルや小さなダンボールが並んでいるけれどごちゃっとしていて、太刀を置いておけるスペースがない。
かといってファイルの上にぽんと置くわけにもいかないだろう。
「うん、分かった」
太刀を差し出される。
永近が鞘の中程を持っていたので、思葉はとっさに柄を取ろうと右手を伸ばした。