妖刀奇譚
物に関して様々な事象を観たり目を閉じてその記憶にある音を聴いたりしてはきたが、直接聴こえたのは今までなかった。
言うまでもないが、物が喋るという経験も初めてである。
「……うっそ、あんた喋れるの?」
人間、驚きすぎると目の前の現実に心がついて行けなくなるものなのか。
ふわふわ浮いた心地になり、悲鳴が口から飛び出さないくらい度肝を抜かれてしまっている。
すると不満げな声が返ってきた。
「なんだその言い草は。
人間の手によってつくり出された物が人間の言葉を操ってなにが悪い」
「いや、別に悪いとは言ってないけど、なにがというか……普通物は喋らないでしょ」
はっ。
今度は見下したような笑声が聞こえた。
「おれたちが喋るのは普通だ、それを聴き取る力がおまえたち人間の大半にないというだけの話だ。
まあ、言葉を操ることができるようになるまでにはかなりの時間と力を要するがな。
人間ごときの物差しで測れるほどこの世は単純ではないのだぞ、小娘」
「山ほどツッコミたいところがあるけど、その前にその小娘っていうの止めてくれない?」
まず思葉は太刀が言ってくる『小娘』に文句をつけた。
ちびよりいくらかましにはなったが、小さいものと言われているのに変わりない。