妖刀奇譚
するとまた太刀がばかにしたように笑った。
「おまえなんぞ小娘で十分だ」
「失礼ね、ちゃんと思葉って名前があるのよ」
「こと?」
太刀がその部分だけを繰り返した。
認識するためではなく、まるで心当たりのある言葉を思わず口にしてしまった調子だ。
人間のように顔がないのでもちろん表情は分からない。
そこで思葉は声だけで相手の大まかな感情を判断するのは案外難しいものだと感じた。
「おまえ、ことという名なのか」
「違うわよ、こ・と・は。
喋れるっていばるならこの程度の日本語ちゃんと聞き取りなさいよ」
「こと…は?」
「そう、思う葉と書いて思葉。分かった?」
太刀から返事はないが、何とも言えない反応をされていることは悟った。
思葉は鍔のあたりに顔を近づける。
「ねえ、ことって誰のことよ?」
「戯れ言だ、忘れろ」
「気になる言い方しておいてそれはずるいわよ、誰?あんたの知り合い?」
「おまえには関係のないことだ、小娘」
「あっ、また小娘って言った、名前で呼んでよ。
次あたしのこと小娘って呼んだら、あたしもあんたのこと『なまくら』って呼ぶわよ」
「なっ、なまくらだと!?」