妖刀奇譚
途端、太刀の声が怒気を孕んだ。
やはり喋るトンデモ太刀でも刀には違いない、なまくらと言われたら腹が立つのだろう。
「小娘、おれは三条の刀工によってつくられたんだぞ、そんじょそこらの刀と同じにするな」
「ならちゃんと名前で呼んでよ、そのためにあるんだから。
あんたがなまくらと呼ばれるのが嫌なのと同じなのよ」
「む……すまん、思葉」
意外にも太刀は素直に謝罪した。
さっきまで小馬鹿にした調子でいたが、根はそこまで悪くないらしい。
「分かればよろしい」
「わっ、ばか触るんじゃ……」
思葉はにこやかに頷いて、人の肩を叩くように太刀の柄の辺りを叩こうと手を出した。
三度、太刀がその手を拒もうとする。
しかし今回はタイミングが遅く、言い終える前に思葉の手は柄に触れていた。
太刀が声を奇妙にひっくり返らせただけで他に変化はない。
試しに思葉は数回柄をぽんぽん叩いてみたが、やはり何も起こらなかった。
きょろきょろ部屋を見回す。
「……なによ、あんだけ触るな触るなって言うから、何か起こるのかと思っちゃった」
「起きるかばか野郎。
おれは太刀だ、女がおれを持つべきではない」
「なんで?」
「なんでって……武器は男が持つものだからに決まっているだろう」