妖刀奇譚





するとドアの向こう側から階段を上ってくる足音が聞こえてきた。


永近だ。


耳を澄ませてみると、その足音はこちらに向かってきている。


思葉は太刀の前から離れると、放置していた鞄のチャックを開け、今までずっと明日の支度をしていた風を装った。



「うん?どうした突然?」



太刀が聞いてきたが無視する。



「思葉?」


「はいっ?」



ノックと永近の声に返事したが、変にひっくりかえってしまった。


ドアを開けて永近がひょいと顔を覗かせる。



「誰かそこにいるのか?声が聞こえたんだが」


「ううん、誰もいないよ、電話してたの。


クラスの友達と、さっきスマホに着信あって……」



思葉は手にしていたスマートフォンでとっさに言い訳を考えた。


「すまほ?」と太刀が呟いたがこれも聞こえなかったことにする。


永近は思葉のスマートフォンを見て頷いた。



「そうか、それでおまえの部屋から話し声がしていたんだな」


「そうなの。おじいちゃんこそどうしたの?」


「ああ、おまえに持って行ってもらった太刀を取りにな。


お、ちゃんと刀掛けを出しているな、感心感心」


「あっ、ちょっと待って」




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