妖刀奇譚
永近が太刀を持って行こうとしかけたので思葉は慌ててそれを止めた。
屈みかけた状態で永近が不思議そうに孫娘を見る。
「どうした?」
「えっと……そ、その太刀、ここに置いておいちゃダメかな?」
「ここにか?別に構わんが、なんでだ?」
当然の質問が返ってくる。
言葉に詰まるとつい腕をばたばた動かして怪しまれてしまうので、それをこらえながら思葉は言い訳を並べた。
あまり嘘はつきたくないが、まさか「その太刀は喋るから、蔵ではなくこの部屋に置いておきたい」と説明するわけにはいかない。
「平安時代につくられた太刀なんて滅多に見ないでしょ?
うちによく引き取られる刀って、大体が江戸時代とか明治時代につくられたものばっかりじゃん。
……あとこの太刀、なんだか少し気になってね」
「気になるのか?」
永近が心配そうに聞き返す。
変な誤解が生じないように思葉は明るく言った。
「でも大丈夫だよ、この間の壺みたいにすっごくまずい雰囲気ではないから。
ただ、少し気になるだけ、本当にそれだけ」
永近は思葉と太刀を交互に見た。
メガネをずらし、目を細めて睨むようにして太刀に視線を向ける。
心臓がうるさいくらい鳴っていたが、思葉は頑張ってそれを顔に出さないようにする。
やがて永近がやれやれという風に頷いた。