妖刀奇譚
そのとき、思葉は思わず想像してしまった。
玖皎とご飯を食べる自分。
カラオケボックスでマイクを鍔のあたりに当てて熱唱する玖皎。
タンバリンを持ちながらそれを盛り上げる自分……。
危うく、思葉は飲みこみかけていたレモンティーを吹き出しそうになった。
グラスを勢いよくコースターに置き、鼻ごと口を押さえて下を向く。
それを見た來世が、驚いて喉から妙な音を鳴らした。
「なっ、なんだよ思葉」
「うるさい黙って、今ちょっとやば……ふふっ」
声を発した途端、一気に可笑しくなって思葉は笑った。
珍しくお腹を抱えて笑う幼馴染みに、來世は訝しげな視線を送って腰を浮かせる。
「どうしたんだよ急に。
おれ、今何か変なことでも言ったか?」
「ちが、違うの……遊びに行っているところ想像したら、シュールすぎて、あははっ」
「はあっ?カラオケや飯行くのが想像するだけでシュールって、その相手一体どんな奴だよ?」
困惑する來世に「玖皎(太刀)」と解答を示す者はいない。
まったく理由の意味が分からず、思葉が笑い止むまで、來世は単語帳を抱えてずっと引いていた。
思葉は笑いすぎて苦しくなった息を整え、目尻に浮かんだ涙を拭う。
しばらくは思い出すたびに笑ってしまいそうだ、いつぞやとは逆の立場である。