妖刀奇譚
ちろ、と永近の瞳が玖皎の方へ転がる。
それだけで玖皎が身構える(ような)雰囲気が伝わってきた。
「おまえが刀が気になると言ってきたのは初めてだったからな。
まだわしに返そうとしないもいうことは、未だに気になるところが解決しないということだろう?
だからわしではなく、おまえがあの太刀の所有者になってやれ」
「……ありがとう、おじいちゃん」
思葉はファイルで口元を隠しながら礼を言った。
嬉しくてにやけてしまう。
「……何をにやついているんだ」
玖皎の声が飛んできたので、角度を変えて顔を見られないようにする。
「じゃあ、これから青江さんのところに行きたいんだけどいい?」
「言うと思ったわ、もう青江さんには頼んでおいたぞ。
昼過ぎからなら時間が取れると言っていたから、しっかり教わってきなさい」
「うっそ!何から何までありがとう、おじいちゃん」
しばらくは苦手な店番も快く引き受けられると思葉は心の底から思った。
呼び鈴が聞こえたので、永近が急ぎ足で店へ降りていく。
思葉はそっとドアを閉め、満面に喜色を浮かべてベッドにダイブした。
そこに玖皎が声を掛ける。
「おい、思葉。今の話はなんだ?」
「県の教育委員会から登録証が交付されたのよ。
これが届かないと、刀を手入れしたり持ち歩いたりできなかったんだ」