【完】狂犬チワワ的彼氏
だから、やがて本当にいたたまれなくなったあたしは…
「ご、ごめんね拓海くん!」
「!」
そう言って、肩に回されている拓海くんの腕を離した。
そして、拓海くんの方を振り向けずに言葉を続ける。
「明日…明日になったら、ちゃんと時間作るから」
「…、」
「今日は…花火、しよ?」
あたしは一方的にそれだけを言うと、拓海くんの返事も聞かずに走ってその場を後にした。
…時間、作るって何よ。
仕事が忙しいサラリーマンとかじゃないんだから、
あたしはさっきの自分の言葉にツッコミを入れつつも、ようやく直樹や芽衣がいる砂浜までたどり着く。
「…あ、妃由。お前遅かっ…」
「ごめんちょっと体調悪い!」
「…え、」
そして未だ花火を続けている直樹にもそう言うと、あたしは真っ赤になった顔を隠すようにしてすぐに別荘の中に駆け込んだ。
体調が悪いなんてもちろん嘘だけど、でも今は暢気に花火もしていられなくて。
あたしはそのまま階段を駆け上がると、急いで自分の部屋に入ってヘナヘナとその場にしゃがみこむ。
……心臓が、ドキドキしすぎて…死ぬかと思った…。
…そして一方、独りその場に残された拓海くんは、
あたしがいなくなったあとグシャグシャと自身の髪を乱して…呟いた。
……せっかく、素直になれたと思ったのに。
「…逃げんなよ、」