【完】狂犬チワワ的彼氏
“…そう言えば、お前さ。ずっと疑問に思ってたんだけど、お前は俺のどこを好きなわけ?”
“……顔、かなぁ。あたし、拓海くんのそのクリクリした目が好き!”
それは、ふと俺が疑問に思って聞いたこと。
だって俺、良いとこ全然無いし。
まぁあのあと結局「優しいところが好き」って言ってくれたけど、そもそも優しいなんて初めて言われた。
もし、妃由が言う「顔が好き」が全ての理由なら…
「奪うのは簡単です」
「!」
「大好きなはずの彼女に、罵倒しまくる彼氏を好きでい続けられるなんて、俺はそんなこと思えません。
今は平気でも、いつかは離れて行きますよ」
そして俺が独りモヤモヤと考えていたら、それを遮るように龍也がまた口を開いてそう言った。
…けど、んなことくらい俺だってわかってる。
いつまでも「ブス」とか暴言を吐くのはよくないって。
でも、思うように上手く出来ない。
俺が、恋愛に慣れていないから。と、
本当は…妃由のことが、
大事でしかたないから。
例えば、目の前に一匹の凄く可愛いチワワがいたとして。
どんなに「可愛い」って思って近づいて、頭を撫でてやっても、
俺達人間は、「可愛い」って思うだけでその目の前のチワワの中身までは見ないはずだ。
妃由はきっと、そんな感覚で。
俺の中身まで、見ていない。
俺がそんなことを思って立ち尽くしていると、やがて龍也は満足そうにその場を後にしてしまった。
………ふいに視界の端に、俺の携帯電話が映る。
突き放したまま、全く鳴らないその存在。
もしかして、もう既にアイツは……。